怖い話「交通事故」
18歳の高校生、悠真(ゆうま)は、いつも通りの朝を迎えていた。試験勉強に追われ、少し疲れが溜まっていたが、それでも彼の生活は至って普通だった。家を出て、自転車で学校に向かう道中、彼はふとした違和感を覚えた。何かがいつもと違う。しかし、その感覚を無視して進むことにした。
彼が交差点に差し掛かったとき、信号が青に変わった。悠真は軽くペダルを踏み出し、道路を横切ろうとしたその瞬間、猛スピードで突っ込んでくる車の影が視界に飛び込んできた。
その車はブレーキを踏むことなく、悠真の体を撥ね飛ばし、彼の自転車は大きく宙を舞った。
意識が戻ったとき、悠真は地面に倒れていた。痛みは感じなかったが、周りが異様なほど静かだった。通常ならば、車のクラクションや人々の騒ぎ声が聞こえるはずだが、そこにはただの沈黙が広がっていた。
「これは…夢なのか?」悠真は立ち上がろうとしたが、足がうまく動かない。彼の視界に映ったのは、自分の体が道路に横たわり、血だまりの中で静かに息を引き取っている姿だった。
「これは何だ…?」彼は混乱し、恐怖に駆られた。しかし、次の瞬間、彼の耳に微かな声が響いた。それは、彼自身の声だった。「大丈夫、これで終わりじゃない…」
その声が聞こえた瞬間、悠真は再び目を開けた。今度は、事故の前の交差点に戻っていた。信号が青に変わり、彼は再び道路を渡ろうとしていた。「またか…」彼の心は恐怖に包まれた。目の前に車が突っ込んでくる光景が再び繰り返され、彼は同じように撥ね飛ばされた。
しかし、今回は違った。悠真は事故の瞬間に自分の体が動かなくなるのを感じるだけでなく、何度も何度もその瞬間が繰り返される感覚に襲われた。毎回、彼は同じ場所で撥ね飛ばされ、同じ痛みと恐怖を味わった。
事故が繰り返されるたびに、悠真の意識はぼやけていき、現実感が薄れていった。「これが…終わりなのか?」彼は自問したが、その答えは返ってこなかった。時間の感覚すら失い、ただ無限の交通事故の中で彼の体が何度も壊れていく感覚に苛まれた。
やがて、彼は自分が生きているのか、死んでいるのかさえわからなくなった。ただひたすら、繰り返される事故の中で恐怖と痛みを感じ続けるだけだった。
悠真の交通事故は、単なる偶然の出来事ではなかった。それは、彼が何かに囚われ、決して逃れることのできない運命の一部だった。彼がどれだけ事故を避けようとしても、同じ悲劇が繰り返され、彼の魂はその恐怖に閉じ込められてしまったのだ。
「交通事故は一瞬の出来事ではない」と言われることがあるが、悠真にとってそれは永遠の悪夢だった。彼の意識は、終わりのない事故の中でさまようこととなった。