「長崎の山奥に佇む”女性の銅像”」

西洋風な洋館 怖い話

怖い話「長崎の山奥に佇む”女性の銅像”」

長崎の山奥には、古い洋館がひっそりと佇んでいる。その洋館は地元では「呪われた場所」として恐れられており、誰も近寄ろうとしなかった。しかし、25歳の建築家、佐藤健(さとう けん)は、その洋館に奇妙な魅力を感じ、週末を利用して訪れることにした。

健は東京出身の建築家で、古い建物の美しさに強い興味を持っていた。特に、長崎には明治時代に建てられた異国情緒あふれる洋館が数多く残っており、その一つであるこの館にも彼の興味を引く要素が詰まっていた。しかし、彼は知らなかった。この館が過去に恐ろしい事件の舞台となり、その影が今もなお漂っていることを。

洋館にたどり着いた健は、その壮麗でありながらも朽ち果てた姿に圧倒された。石造りの外壁は苔むし、窓は割れている箇所も多く、館全体が長い年月を経て放置されていたことを物語っていた。だが、その荒廃の中にも、どこか神秘的な魅力が漂っていた。

健は懐中電灯を手に、館内に足を踏み入れた。薄暗く湿った空気が漂い、床板は彼の一歩一歩に軋む音を立てる。古びた家具や埃をかぶった絵画が乱雑に置かれ、そして無数の彫刻が館内のあちこちに配置されていた。

その中でも、特に目を引いたのは「女性の銅像」だった。美しくも冷たい表情をしたその銅像は、何かを見つめるように立っており、その瞳には異様な力が宿っているように感じられた。健はその場に立ち尽くし、しばらくの間、動くことができなかった。しかし、その時、背後で何かが動いた気配がした。振り返ると、そこには誰もいなかったが、健の心に不安が生まれた。

館内を探索するうちに、健は古びた日記を見つけた。それは、かつてこの洋館に住んでいた外国人貿易商、ジョン・ブラックウッドのものだった。健は興味深く日記をめくり、そこで「女性の銅像」に関する驚くべき記述を目にすることになる。

日記によると、ジョンはこの館を建てた際に、日本人の妻である美しい女性、和子(かずこ)をモデルにしてその銅像を制作したという。ジョンは彼女を深く愛しており、その美しさを永遠に残したいと願っていた。しかし、その後、和子は不可解な死を遂げた。村人たちは事故だと考えたが、ジョンは彼女の死に納得できず、深い悲しみと疑念に囚われていった。

やがて、ジョンは妻が何者かに殺されたと信じ込み、真犯人を捜し求めたが、犯人を見つけることはできなかった。狂気に駆られたジョンは、和子の魂が自分を呪っていると考え、その呪いを銅像に封じ込める儀式を行った。そして、その銅像をこの館に隠したのだ。

日記を読み進めるうちに、健の心は寒気に包まれた。日記に書かれている内容が本当だとすれば、この館はただの廃墟ではなく、何か邪悪な力が宿っている場所なのかもしれない。だが、彼はその不安に抗い、再び「女性の銅像」の前に立った。

その銅像は、何かを訴えかけるように健を見つめていた。彼はその冷たい銅に触れた瞬間、強烈な映像が頭の中に流れ込んできた。それは、ジョンが和子を殺害する瞬間だった。彼女を永遠に美しく留めたいという執着が、彼を狂気に駆り立て、彼は愛する妻の命を奪ってしまったのだ。その後、ジョンはその罪の重さに耐えきれず、自ら命を絶った。

健はその映像の衝撃から逃れることができず、立ち尽くしていた。そして、次の瞬間、銅像がゆっくりと動き出した。彼の目の前で冷たい瞳を持つ女性の銅像が、生き物のように動き出し、その手が健の肩に触れた。恐怖にかられた健は逃げ出そうとしたが、足が動かない。

次の瞬間、激しい痛みが彼の体を襲い、意識が遠のいていった。目が覚めた時、彼はもう自分が人間でないことに気づいた。健は銅像と一体化し、永遠にこの洋館の一部となったのだ。

佐藤健の失踪は、家族や友人たちにとって謎のままであった。捜索は続けられたが、彼の行方を知る者はいなかった。そして、長崎の山奥にある洋館も、再び静寂に包まれたままだった。しかし、洋館を訪れる者は、館内に並ぶ銅像が以前より一体増えていることに気づくだろう。冷たい瞳で何かを見つめるその銅像が、かつて佐藤健という名の若者だったことを知る者はいない。

タイトルとURLをコピーしました