「レンタルスペースに潜む異界の扉」

レンタルスペース 怖い話

怖い話「レンタルスペースに潜む異界の扉」

17歳の石井悠太は、夏休みの終わりが近づく中、友人の健太と一緒に課題を片付ける場所を探していた。自宅やカフェでは集中できないため、少し静かな場所が欲しかった。そんな時、健太が見つけたのが「レンタルスペース」という選択肢だった。街外れの古びたビルにある格安のスペースで、設備は簡素だが、集中するには最適だった。悠太は特に期待せず、健太とともにそのビルへと向かった。

ビルは古く、まるで数十年放置されたかのように見えた。エレベーターは使えず、階段は錆びついており、踏むたびに軋む音が響いた。何かが朽ちていくような感覚に包まれながらも、2人は最上階にある目的の部屋へとたどり着いた。鍵を回し、ドアを開けると、中は意外に整然としていた。古いが、テーブルと椅子がいくつか並び、窓からは薄暗い街が見える。

「意外と悪くないな」と健太が笑いながら言った。悠太もその時は同感だったが、何かが違和感を与えていた。部屋全体が妙に冷たく、カビのような湿った匂いが漂っていた。それに、壁には何かの模様が掘り込まれているようだった。遠目にはただのひび割れに見えたが、よく見ると何かの形をしている。人間の目のようにも、あるいは抽象的な怪物のようにも見えるその模様に、悠太は背筋が冷たくなるのを感じた。

勉強を始めてしばらく経つと、部屋の静けさが一層際立ってきた。健太が持ってきたポータブルスピーカーから流れる音楽が、わずかにその空気を和らげていたが、それでも悠太は時折、背後から何かの視線を感じていた。何度か後ろを振り返ったが、そこには誰もいない。ただ、冷たい空気が流れてくるばかりだった。

「ちょっとトイレ行ってくるわ」と健太が部屋を出た時、悠太は一瞬、強烈な孤独感に襲われた。健太が去ったことで、部屋全体がさらに冷たくなったように感じたのだ。悠太は集中しようとしたが、何かが気になって仕方がなかった。どこからか微かな音が聞こえる。風の音ではなく、ささやくような声。それが壁の模様から聞こえているように感じた。

悠太はふと、その模様に手を伸ばした。指先が触れると、壁がまるで生き物のようにうごめき、模様が淡い光を放ち始めた。その瞬間、悠太の視界が揺れ、壁の一部がまるで幻影のように変わり、そこに扉が現れたのだ。

悠太は息を呑んだ。その扉は不自然にねじれており、まるで異次元へと繋がっているかのようだった。普通のドアとは明らかに違い、光と影が交錯し、その向こう側には何かが潜んでいるのを感じ取れる。悠太は恐怖心を抱きながらも、好奇心に勝てず、ゆっくりと扉に手をかけた。

扉がきしむ音を立てて開いた瞬間、目の前に広がったのはこの世のものとは思えない光景だった。黒い空に覆われた異形の都市。ねじれた建物が奇怪な角度で並び、空を飛ぶ何かが悠太の頭上を通り過ぎていった。地面には無数の影が蠢き、彼を睨みつけるかのように視線を投げかけていた。

「戻れ、戻れ…」

どこからか囁くような声が聞こえたが、その言葉が何を意味するのか理解する間もなく、悠太の視界は闇に包まれた。

健太が戻ってきた時、悠太はその場に立ち尽くしていた。扉は消え、部屋は元の静けさを取り戻していた。健太は「何してんだよ?」と不思議そうに尋ねたが、悠太は返事ができなかった。自分が見たものが現実か夢かさえ分からなくなっていたのだ。

その日の夜、悠太は不眠に悩まされた。何度も夢の中であの扉が現れ、再び異形の世界へと誘われる。そして次の日、彼らは再びレンタルスペースへ行く予定だったが、悠太はどうしても行く気が起きなかった。しかし、健太がどうしてもと言うので仕方なく同行した。

だが、彼らがビルの場所へ向かうと、そこにはビルどころか何もなかった。荒れ地が広がっているだけで、管理会社に確認しても、そんなビルは元から存在しないという。悠太は寒気を覚え、現実との境界が崩れ始める感覚に陥った。

それからというもの、悠太の夢にはあの異形の扉が繰り返し現れ続けた。彼は次第に、夢の中で再びその扉を開けることを恐れるようになった。だが、それは避けられない運命であるかのように、毎夜彼を呼び続けている。

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